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現場で行う人材育成のポイント

東京医師歯科医師協同組合機関誌「TMDCMATE」に掲載。(2005年10月)

1.育ってほしいと「願う心」を持つ

人材育成というと、どうやって育てるのかというスキルの話になりがちですが、スキルの前に、その人の伸びる力を信じる心をベースにもつことが大切です。

「ピグマリオン効果」という言葉があります。
これはギリシャ神話に出てくる話ですが、王ピグマリオンが木彫りの娘ガラティアに恋をし、人間になって欲しいと願ったところ、遂に人間になり、妃にしたという話です。

これは「期待表示の効果」とも言い、相手にこのようになって欲しいと願う心が相手を動かし、願うようになって行くということなのです。

人材育成を考えるとき、相手を信頼し伸びる力を認め、育って欲しいと願う心をもつ、このようなマインドをまず持っていただきたいと思います。
人材育成はマインド×スキルなのです。

2.指示と報告のときに人を育てる

「忙しくて人を育てるヒマがない」という方がよくおられます。
しかし、リーダーがメンバーを動かそうとするとき、必ず指示をし、報告を受けるはずです。
この指示をし、報告を受けるときに、人を育てることができるならば、どんなに忙しい方でも人材育成はできるということになります。

指示をするとき育てる

部下には、「何のために、何を、いつまでに、どのような方法で行うか」を指示しますが、この指示をするときに人を育てることを考えるのです。
人材育成マインドをもつリーダーは、日常から部下の仕事の状況や能力特性をつかんでいます。
その上で、指示をするときに、本人の能力を少し上回る程度の仕事を与えます。

また、このときに紙や白板に書いて仕事の説明をしたり、現物を見せたりして、仕事の内容を具体的に教えます。
どのような方法で行うかは、ベテランには「やり方は任せる、君の創意工夫でやってくれ」とやり方を研究させます。

一方、新人には、どのような方法で行うか、その場で仕事の手順を教え、不安感なく仕事に取り組めるようにします。

報告を受けるとき育てる

指示をしたなら必ず報告を受けます。
このときお願いしたいことは、他の資料を見たりしながらの「ながら聞き」ではなく、本人育成の大事なチャンスと考え、本人に心身とも正面を向いて報告を受けて欲しいのです。

まず、どのようなことが出来たのか、事実や経過を聞きます。
このとき、報告を聞きながら、部下と同じ視点で考えるのでは、リーダーとして能力不足と言わざるを得ません。
プロのリーダーとしては、この点はどうだったと、角度を変えた質問をして欲しいのです。

例えば「患者さんはなんと言っていたの?」という具合です。部下に、違う角度から見たらどうなるか教えたいのです。
プロの料理人は食材を切るときに色々な包丁を使い分けます。
それと同じで、プロのリーダーは事実を分析するのに、色々な切り口を見せれることが必要です。
その上で、良くできた点は、今後もその方法で頼むよと定着化を図ります。

うまく行っていない点は、ベテランの部下には「今後どうしたら良いと思うか」と自己の考えを言わせます。新人の部下には、「こうしたらうまく行くよ」と、例によって紙や白板に書いたり、書かせたり、現物を使ったりして教えます。
言葉だけでなく、人の器官すべてを刺激することによって、人はいつまでも記憶することが出来ます。

3.高学歴社会で必要となる質問のスキル

メンバーが高学歴化し、有能な人が現場で問題解決の知恵をそれぞれ持ちながら、働いております。
これからのリーダーに必要となるのは、メンバーがもっている知恵を生かし、それを更に発展させ、また、職場に公式なものとして広めて行くことです。
リーダーは一方的に指示するのではなく、上手な質問によって、現場の知恵をつかみつつ、人を育てて行くスキルが求められます。

まず、「考えを深める質問」です。
例えば、「あなたの担当業務は何ですか?」と質問するのでは、相手はすぐ答えるでしょうが、何も考えずに答えるでしょう。
「あなたの業務の目的は何ですか?」とか「あなたの業務のポイントは何ですか?」と聞くと、相手は考えて答えることになります。
考えた答えを得ることによって、リーダーは現場の状況をつかむことができます。また、本人も考えることによって問題の整理をすることができます。問題を整理することは、問題の筋道が分かることです。

次に、「成功のための質問」です。
過去の失敗を聞き出し、今後それはだめだよと言っても、本人はつらいことを思い出すだけで、やる気は起きてきません。
野球で「こうやってバントをしてはダメだよ」と教えると、肝心なときにダメだよと言われた方に体が反応してしまうと言います。
失敗をほじくり出すのでは、失敗イメージが頭に残り、肝心なときに同じ失敗をやってしまうのです。
「今後どうやったらうまく行くと思うか?」という未来に向けて、成功をイメージした質問をする必要があります。

このような質問をされると、本人は新しい成功に向けて、どう創意工夫して仕事をしようか楽しく考え、意欲をもって仕事にチャレンジすることになるでしょう。

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